Sarah's key , Tatiana de Rosnay

 

 

大戦中にパリに住んでいたユダヤ人の少女、大規模なround upで連れて行かれる際に、小さな弟を戸棚の中に隠して鍵を掛けていく。すぐに帰ってきて出してあげるつもりだった。ここにいれば安全だと思った。

少女の話と、現代のジャーナリストの話が交錯して進むのだが、そのジャーナリストと同じく、わたしの胸も少女のことでいっぱいとなり、締め付けられる。その苦しみと悲しみを、忘れないと伝えたいと願う彼女。

 

力のある物語を、誰もいない、閉店したカフェのオープンスペースで読んでいた。半地下の天窓から降り注ぐ光と雨。彼女はいつかこの全てを思い出すだろう、そんな文章を読みながら、わたしもいつかこの物語をここで読んだことを思い出すだろう、と思った。湿った空気と、淡い光と、ほろ苦いコーヒーの味と、この胸の痛み。